私たちが探究するのは、人のこころ、という形なきものの可能性です。こころは目には見えないけれど、真心を込めて作られた物には、温もりとエネルギーが宿っている。一緒に生活する物こそ、心ある品を。想いあふれる駆け出しの職人に出会いました。
京都市北区にアトリエ兼住居を構える染織家、大苗愛(おおなえめぐみ)さん。現在同志社大学大学院の総合政策学科ソーシャル・イノベーションコースに在籍しながら、日々糸を紡いで、はたを織っている。
彼女がめざすのは「用の美」。日常のなかで用いられる道具たちに込められた意味や文化に眼を向ける。
例えば藍。日本人になじみ深いこの素材には、紫外線や放射線、虫から肌を守る効果があると言われ、古くから農作業着など日常の服に用いられてきた。
また木綿素材の服は、晴れ着→野良着→肌着と、仕立て直して永く着続けることが前提だったもの。くり返し着るなかで、ごわついていた木綿が、次第に肌なじみのよい布になる。布の風合いの変化とともに、服をモデルチェンジさせていた。
大苗さんがめざすのは、そんな「暮しのなかの布」。日々の営みに密着した、暮しのなかで使い、暮しのなかで作る布。そんな布をつなぐ染織家でありたいと彼女は語る。
ものづくりは、生きること。
生きていくために必要な衣食住に関することは、最低限自分でできるように。そんな気持ちが強い。幼い頃、当時住んでいた茨城県で冷害に見舞われた。なかなか米が手に入らず、うどんやひやむぎ・そうめんで日々食いつないだ。周囲には農家も多かったが、みな自分の食料が優先で、誰も米を分けてくれない。
「食べる物ぐらいは自分で作れるようにならないと」
幼いながらに危機感を覚えた。衣食住の絶対的な保障はないと肌で感じたこの体験を機に、自然とものづくりへ興味をよせるようになる。
その後は、畑に油絵に陶芸に、興味の赴くまま物づくりや手仕事にのめりこんだ。高校時代は油絵、大学時代は万葉集の研究に没頭していた。今の職業である機織りも趣味で続けていたが、当時は身近すぎて、染織を特別に意識することはなかったという。
転機は進路選択。将来進む道を考えた時に、幼い頃から唯一心を離れなかった「染織」の存在に気づいた。こんなにも興味が尽きない布の世界。
「染織の道に進もう」
そう決意し、大学院に進学。のち島根県の染織工房で2年間の修行を経て、昨年6月京都に帰ってきた。ちょうど先日修士課程4年目が終了。仕事として、職人としての生活が始まろうとしている。
▲手慣れた様子で糸を紡ぐ大苗さん。糸車を回すスピードは、思いのほか速い。「丁寧にしたいからってゆっくり作業すると、考え方も弛緩してしまう気がするんです。」
▲どこを取っても絵になる仕事場兼住居。何件もの家具屋や古道具屋を巡って集めた、お気に入りの家財が隅々に。
▲抹茶とお茶菓子で出迎えてもらった瞬間から、一同ファンになりました。
そんな大苗さんとのコラボ企画を、こころ館ではただいま絶賛準備中。詳細は近日公開予定です。はやくリリースしたーい!乞うご期待です。
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